BLOG

デルタ波(脳波)と脳の浄化:ボストン大学の最新研究が明かす脳脊髄液の役割

はじめに:眠りと脳の浄化のメカニズム

Video courtesy of Laura Lewis: Waves of cerebrospinal fluid flow (blue) during sleep.

最近、ボストン大学の研究【1】で、睡眠中に脳がリフレッシュされる仕組みについて、興味深い発見がありました。

特に、ぐっすり眠っているとき(深いノンレム睡眠中)に出る特殊な脳波(スローウェーブ、またはデルタ波と呼ばれます)には重要な役割があります。

この波が、脳の中を流れる特殊な液体(脳脊髄液)の流れを良くし、脳の中の不要な物質を掃除してくれるのです。

つまり、睡眠は単に休むだけでなく、脳の中を掃除してくれる大切な働きがあることが分かってきました。

この記事では、この特殊な脳波が、どのように脳の中を掃除して疲れを取り除いてくれるのか、その仕組みについて詳しく説明していきます。

デルタ波が脳脊髄液(CSF)の流れを促進する

仕組みの解説

デルタ波と脳活動の低下

深い睡眠中には、ゆっくりとした脳波(デルタ波)が現れます。この脳波は0.2〜4Hzという低い周波数で、脳が深い休息状態に入っている証です。このとき、脳全体の活動は落ち着いた状態(神経活動が全体的に抑制された状態)になります。

脳の血流と血液量の変化

脳の活動が落ち着くと、脳への血流が減ります。これは、脳が休息中で酸素をあまり必要としないためです。血流が減ることで血液量も減り、脳の中に余裕のある空間ができることで、脳脊髄液が入りやすくなります。

脳脊髄液の流れの増加

脳脊髄液が脳全体をスムーズに循環できるようになります。これにより、脳の中の不要な物質が効率よく洗い流されます。

【Fig. A,B,C,D,E】Fultz, N. E., et al. (2019). Coupled electrophysiological, hemodynamic, and cerebrospinal fluid oscillations in human sleep. Science.

簡単に言うと

つまり、深い睡眠中の特殊な脳波が、脳の活動を休ませ→血流を減らし→脳脊髄液の流れを良くする→脳の掃除が行われる、という流れです。

脳脊髄液(CSF)が脳疲労をリセットする

脳疲労の原因とその影響

脳疲労とは

私たちの脳は、日中の活動で多くのエネルギーを使っています。その結果、アミロイドβやタウタンパク質などと言う不要な物質が溜まってくるそうです。これらが溜まりすぎると脳が疲れてしまいます。不要な代謝産物が神経細胞の正常な働きを妨げ、神経ネットワークの効率が低下します。その結果、認知機能や集中力が低下し、いわゆる脳疲労が進行してしまうのです。

脳疲労が引き起こす集中力や判断力の低下

脳疲労が蓄積すると、集中力や判断力が低下し、思考がクリアでなくなることが多くなります。また、脳が疲労を感じると、日常のパフォーマンスが低下し、ストレスや不安感が増加することもあります。これにより、日常生活においてミスが増えたり、記憶力が衰えたりすることが懸念されます。

脳疲労をリセットするしくみ

脳の「ゴミ」を掃除する脳脊髄液

深い睡眠中に増える脳脊髄液の流れが、これらを洗い流してくれます。深い睡眠中には、脳脊髄液が脳の中をぐるぐると循環し、不要物を除去する「お掃除」が活発に行われます。これにより、脳は元気を取り戻し、また新しい情報をスムーズに処理できるようになります。

良質な睡眠を確保するための実践的なアドバイス

おすすめの習慣

深呼吸とリラックス効果

深呼吸は、副交感神経を活性化し、心拍数を落ち着かせることでリラックス状態を作り出します。【2】これにより、入眠がスムーズになり、深い睡眠への移行が促進されます。深くゆっくりとした呼吸を続けることで、脳は自然にリラックスし、深い睡眠へと導かれます。

瞑想・マインドフルネス

瞑想は心を落ち着かせるだけでなく、脳波にも良い影響を与えます。初心者でも、アルファ波(8〜12Hz)が増加し、心身がリラックスする状態を生み出せます。一方、瞑想の達人や長期の瞑想実践者は、ガンマ波(30Hz以上)が増加するそうで、高度な集中力や意識の統一が見られることが知られています。このガンマ波の増加は、脳内の神経ネットワークの同期を強化し、脳全体の調和を高めます。【3】【4】

まとめ:デルタ波がもたらす脳の回復力を引き出そう

良質な睡眠、特に深い眠りは、脳を元気にして日々の活動をより充実したものにするために、とても大切です。

脳が自然と行っている「お掃除」の仕組みをうまく活用するには、寝る前の過ごし方を工夫することが重要です。生活習慣を少し見直すだけで、脳はもっとすっきりとリフレッシュでき、毎日を気持ちよく過ごせるようになります。

これまでの説明で、睡眠が「ただ休む」以上の大切な働きを持っていることがお分かりいただけたでしょうか。深い眠りの力を味方につけることで、脳を長く健康に保つことができます。

実は、あなたの脳が本当に必要としているのは、夜の静かな時間に行われる「脳のお掃除タイム」なのかもしれません。

ぜひ、良質な睡眠を心がけ、脳も体も健康に、ていねいな毎日を送りましょう。

参考文献
【1】Fultz, N. E., et al. (2019). Coupled electrophysiological, hemodynamic, and cerebrospinal fluid oscillations in human sleep. Science.
【2】Jerath, R., et al. (2006). The physiology of long pranayamic breathing: Neural respiratory elements may provide a mechanism that explains how slow deep breathing shifts the autonomic nervous system. Medical Hypotheses.
【3】Lagopoulos, J., et al. (2009). Increased Alpha Brain Waves During Meditation. The Journal of Alternative and Complementary Medicine.
【4】Lutz, A., et al. (2004). Long-term meditators self-induce high-amplitude gamma synchrony during mental practice. Proceedings of the National Academy of Sciences.

Related post

TOP